





発行日 :2022年11月22日
サイズ :210mm x 210mm
ページ数:52ページ
2022年11月Jam Photo Galleryで開催された写真展と同時に発刊。
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「遠い昔の記憶の中に今もくっきり残っている風景がある。網膜色素変性症という病気は発症から約10年かけて症状が進みやがて失明するというもので現在も原因も治療法もわからない難病となっている。私は25歳くらいから目の異変を感じて複数の病院で診察を受けたがどこでも同じ病名を告げられた。ただそのころはまだ視力もあり「いずれは見えなくなる」と言われても信じられず、必ずどこかに治せる方法があるはずだとあちこちの病院や鍼灸、さらに怪しげな占いなどにも行った。しかし目の症状は徐々に悪化してきてふつうに歩くにも困るようになってきたころ、ある人から紹介された眼科にしばらく通院した。何度目かの通院のとき、担当医から別室に呼ばれて次のように告げられた。
10年後には必ず見えなくなるので、今すぐ視覚障碍者として生きる道を探してください。現代医療では治せない病気なので、ここに来るのも時間の無駄です。
心のどこかではわかっていたことだが、ここまではっきり言われたのははじめてだったので大きな衝撃だった。やはり自分は近いうちに失明するのだと実感した。これから自分はどうなってしまうのだろうか、障碍者としてどう生きていけばいいのだろうか…病院を出て帰りの駅の柱にもたれて、そこを行き来する人たちを虚ろな気持ちで眺めていた。あのとき感じていた不安や恐れは今はもうないが、駅の柱にもたれて呆然としていた私、そしてそこをただ流れてゆく不安で空虚な風景は今も記憶の中にくっきり残っている。」
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西尾憲一 (にしおけんいち)
1952年 岐阜県生まれ。36歳頃に網膜色素変性症を発症し視力を失う。現在、東京 台東区で鍼灸マッサージ治療室を運営。2010年に尾崎大輔氏主宰の「視覚障碍者と楽しむ写真教室」に参加したことをきっかけに写真を始める。カメラを使えば自分でも何か表現できるのではないかと思い一眼レフを購入。2020年2月、台東区にて初個展『盲目の写真世界 vol.1 〜見えない何かが・・〜』を開催。